ひとりじゃ何もできなかった

基本的にひとりが好きだし、何かをひとりでやるってことが好きなので、ひとりで何でも決めれるし動ける。でも別に誰かと何かをやるのが嫌いかって言ったら全然そうじゃないし、むしろ同じところを見つめて誰かと何かをやれるってとても素敵だからそれはそれでとっても大好き。たくさんの人と同じ時間に同じような過ごし方でそれぞれの感情を抱きながらその空間に入れるのも好きだし。でも例えば混んでいる電車とか、休日の渋谷スクランブル交差点を大勢で渡るあの感じとか、花火大会の打ち上げ付近で警備員の人が警備しながら人の流れに沿って辿り着いた場所で見るみたいなのが苦手で。そんなことしたことないんだけども。面倒な人間だな、ああ言えばこう言うし。将来、子供とかがもし出来て「父ちゃん、花火大会近くで見たい！」とか「スクランブル交差点を5往復したい！」とか言われたらなんて言おうかな。「いや、ちょっと待て！一回落ち着こう、な？」とか言ってごまかせるかな。いや、そこはごまかさず、父ちゃんいいとこ見せたほうがいいかな。ま、いいか、そんなことはどうでも。子供にはとうちゃんって呼ばれたいな。いや、とりあえずもういいか、この話は。

6日、大阪梅田クラブクアトロ。悔しかった去年を引きずりながら会場入り。いきなり37度はちょっと厳しかった。ちょうど一年前、同イベントで場所は同じ梅田クアトロで、物販で一人の男性がいきなりCDを僕に突きつけてきた。「これ、聞いてください。聞かないで捨ててもいいんで。」と。その男性とはそれが初対面だったし、なぜ僕にくれたんだろうと思ったし、なぜそんなことを言うんだろうと思った。僕はありがとうございますと受け取り、札幌に帰ってから聞こうと思った。それが、6日の一番目に出ていた河内REDSのギターのマサチカだった。もちろんその時は名前も何も知らず。あれから一年が経ち僕はようやく彼の、彼らのライブを見た。どんなライブするんだろうなと、最初は一番遠くから見てて、3曲目くらいから、僕は気づいたらマサチカ側の前から３列目ほどの場所にいた。彼は完全なギタリストだった。所謂ロックンローラーだった。細いズボンに、首元切ったTシャツ。エフェクターは、ボリュームのつまみ。ああ、完璧だ、完璧だ。何度もそう思った。顔がフックに似てるなあと思いながら、札幌のりゅーに会わせたいなとか思いながら、僕は彼に見とれていた。途中でマサチカがメインボーカルをやる歌があって、それがまた最高であった。終わった後、4秒くらいでトモヤさんが僕のところに来て「見た？ギターの彼、最高なんだけど」といってきた。「ね。」と返した。そんでBacon、愛すべきBacon。本当に幸せだった。ベーコンのライブ見てると音楽って幸せだなという意味不明な気持ちになる。札幌でみたいし、あわよくば札幌で一緒にやりたい。もうバンドのキャリアも長いベーコンだけど、きっとずっとこうやってきたんだろうなと思う。出会ったのは去年だけど、本当にこの一年でめちゃめちゃファンになったバンドの一つ。思い出しただけで幸せな気持ちになれる。僕らの前にギャーギャーズがやって、最後に僕らがライブをした。去年も僕らはトリだったけど、今年は去年よりお客さんがいた、嬉しかった。40分に9曲詰め込んで、アンコールもいただいて、盛大にやった。夏の大会は10月までまだまだ続くのかと思うと心が張り裂けそうになるが、そんなことを思える僕は幸せ者だよな。

7日、大阪から東京にひとり向かう途中、とある駅のホームでバタン。大したことなかったので心配ご無用だけど、今までかいたことのない種類の汗を大量にかいたので少し怖かった。

8日、完全復活して下北沢SEED SHIP、ひとりワンマン「ひとり３」。最終的なセットリストは結局当日に決まる。新旧問わずワタナベシンゴを詰め込みたかった。お昼過ぎ、ラブ人間のツネさんと合流。お互いバンドマンではあるけれども、いちバンドの中心人物として、いち大人として諸々の打ち合わせ。本当にお世話になっている良き兄貴。スパゲティ奢ってくれた。僕は取材が入っていたので一旦ツネさんと別れ、下北沢のとあるお店へ。待っていたのは音楽誌「DONUT」の秋元さんと森内さん。ただいまお休み中のDONUTだけども、どうやら10月に復刊ということで、その号に僕のお話を載せたいだなんて言ってくれたもんで。「とあること」についてたっぷり話してきた。どうやら、サニーデイの曽我部恵一さんやましまろの皆さんにも同じテーマで話を聞いているらしく、そこに僕も混ざっていいものなのかとビクついてるけども、楽しくゆっくり思い出しながら、僕は僕なりのお話が出来た気がする。詳しい詳細は分かり次第追って発表とのことで、お楽しみに。取材が終わり、SEED SHIPへ。会場に入ると、オーナーの土屋さんとスタッフのわかさんが、「シンゴくん、待っていたよ。」と出迎えてくれていきなり泣きそうになった。1月に初めてここでひとりワンマンやった時からとてもよくしてくれて。本当にたまたま見つけて電話して、こうこうこういうものですワンマンやらせてくださいって電話して。どこのどいつかもわからないような奴にめちゃめちゃ色々考えてくれて。年内にもう一回やりたいなって思って。シンゴくんリハやろうって、ノリノリで。そしたら土屋さん、どうやら入院中らしく、外出許可もらってわざわざ来てくれたみたいで。「ごめんね。リハ終わったら病院戻らないといけないから、わかちゃんにあとは任すから。また来てね。いいライブを！」って言うもんだからまた泣きそうになってしまった。任せてください、絶対いい日にします、わかさん頑張りましょう！って。土屋さんは笑って、それじゃあねと、リハが終わって病院へ戻っていった。ツネさん、撮影のフウコと、諸々確認して受付と物販はツネさんに任せて、楽屋で最後の練習。お客さんが入ってきているのを楽屋で感じて、緊張がとめどなく押し寄せてきて、ずっとアアアアアッていっていた。10分前、さてTシャツを切って書くかと思ったら、Tシャツが、ない。買うの、忘れて、いた。そういえばリハ前に「後で買いに行こう」と思ってから、リハ終わって緊張しまくって会場から出れず買っていなかったのだ。フウコに「フウコ、やばい、Tシャツ買ってない」と告げるとフウコは「ぎええええええええ」と声をあげ、楽屋を飛び出し、Tシャツを買ってきてくれた。フウコが楽屋にいなかったら、僕はピンクのTシャツに文字を書いてステージに出ていただろう。いやはや、あれはびっくりした。フウコが一番びっくりしていた。フウコさんありがとう。そして、ステージに上がり、一曲目の「東京」という歌を歌った。そこからの二時間は、僕にとってはあっという間で、北海道の夏みたいだった。ところどころ、これはこういう歌なんですなんて野暮ったいことも言いながら、ボイガル初期の曲「手のひらを合わせて」では盛大にコールアンドレスポンスをしながら、アンコールでは歌うつもりなかったけど何かお客さん見てたらこれだと思って「パレードは続く」を大合唱しながら、そんな風にしてライブは終わった。一人一人にありがとうだったり、ほんのすこしでも話を聞いたりしたいところだったけど、時間も限られているし、きっと僕の気持ちは伝わっているしなんて謎の自信もありつつ、終演後は楽屋から出なかった。そしたら、15分くらいでお客さんは会場からみんな出ていて、何て素晴らしいんだ！と思った。なんていうか、いろんなこと思いながらも「いい時間だったなあ、よし帰ろう、よっしゃー！帰るぜ！！」ってなったのかなと思うと、嬉しかった。わかさんも、「みんないい顔して、帰って行きました」とニコニコしていた。嬉しかった。嬉しいことがたくさんだった。片付けて、がらんとしたシードシップに別れを告げて、三人で打ち上げ。お店に向かって歩いていると「シンゴさん！」と声がしたので振り返るとどうやらライブに来てくれていた方達で、居酒屋から顔を出していた。僕がそっちに少し戻ると、その子達はそうめんをくれた。下北沢の真ん中でそうめんを貰うとは思ってもいなかったのでびっくりしたがありがたくいただいた。二人のところに戻り、お店に入り、ああでもないこうでもない言いながらワーワー打ち上げ。ビールが美味しくて、ツネさんが優しくて、フウコはパソコンを膝の上に広げながら飲んでいて、今日はいい一日だったなあとしみじみ思った。結果酔っ払ってしまったが、ま、よしとしよう。他人に厳しく自分に甘いワタナベシンゴです。来てくれた人は本当にありがとう。ソールドアウト公演で予約制なのにどうしてもいけなくなってしまって申し訳ありませんと、わざわざ本番前にホームページに連絡してくれてた方もありがとうございます、その気持ちだけで嬉しいですよ。いつかまた、今度は東京じゃない街でもやりたいなと思いました。

10日、お昼前から一時間くらい二子玉川で路上。とんでもない暑さの中、お集まりいただいた15名ほどの皆様よくぞ来てくれました。僕はというと前日のワンマンを引きづりまくりで声はちゃんと出ていないし暑くてぼーっとしてるしで、ろくに歌えず、ずっと笑ってごまかしてました。いつもの半分くらいの力しか出せなかった気がするんだけど、いつもは歌わない歌にチャレンジして途中でやめたり、くだらないなーって笑ったりを、あの激猛暑の中に時折吹く風を感じながら誰かとともに過ごせたというのは、僕の東京の夏の淡い思い出です。それにしても暑かった。本当に暑かった。なので札幌帰ってきて、なか卯のうな重を食べました。おいしかった。

さて今月はあと6本のライブがある。気を抜くと、暑さに溶けるか風に吹き飛ばされるか雨に流されるかのどれかになるだろうな。強くたくましく、穏やかな気持ちで、誰よりも冷たく、誰よりも大きな声で。さあ、僕にできることはなんでしょう。

東急ハンズの前、路面電車、見覚えのある景色と晴れ渡る30度の青空。