「SONG FALLS TOUR」広島

22日
福岡から広島までの道、流れる景色もだいぶ見慣れたもんで地図と照らし合わせながら窓の外を見ながら向かった。車でも飛行機でも電車でも新幹線でも基本的に寝ることができないので、夜は夜の良さもあるけど日中の移動の方が好きだな。

会場のBACK BEATの横で、一人の男の子が声をかけてくれた。「シンゴさん、俺、武田の卒業生で、2月末にきてくれた時に体育館にいました。あの時ボイガルを知って好きになって、今は大学でギター弾いてます。今日楽しみにしています」と話してくれた。
武田とは、広島県の武田高校のことで、俺たちの「卒業証書」という曲のミュージックビデオの舞台になった学校。あの日がきっかけになってこうやってライブハウスでまた会えたりするってことが俺は心底うれしかった。

BAN'S ENCOUNTERとベランパレードが共演してくれた。多くは語りたくない。認めよう、フロアの3列目から、後ろから、ステージの袖から見た彼らのライブに嫉妬してしまったんだな。だからなるべく視野を狭めて、足元とか手元とか見るようにしたんだ。やだやだ、情けない。何度思ったかわからないもんな、「いいなあ、お前は」って。ただ、そんな風に思える人がツアーに出てくれて共演できてやっぱりそうやって思えて、そこでまた自分を外から見れるきっかけになったということは幸せなことであり、大切なことだ。感謝している。ステージに立つまで色々なことを考えたし、考えさせられた。何のためにここに来たかとか。何を伝えるべきかとか。どんな気持ちでここにいるかとか。どんな人がいるかとか。どうやったらかっこいいかとか。本来考えなくていいようなことまでこの日はずっと考えていたし、考えざるをえなかった。結果的にとっちらかったままステージにたったけど、それ自体は特に問題ではなかったな。周りからのイメージ、求められてるもの、バンズとベランの流れ、何となくわかるんだけどそういうものに応えれる力量があの日の俺にはなかっただけだ。だから、そのままの俺でステージに立つことで、あの日は完成すると思った。2014年11月に「歩く日々ソング」という曲のシングルでタワレコ限定ではあるけど初めて全国流通というものを体験した。それもあって広島にもこれるようになったから、歩く日々ソングは絶対にやりたかった。なんか色々あったな、歌いながら本当にそんな風に思った。フロアに飛び込むこともなく、ゴッチャゴチャになることもなく、この日俺の心の底の底で身動きが取れなくなっている思いや言葉を吐き出すことも溶かすこともせずただじっと見つめるような、そんな風なライブになったように思う。俺にとってそれは言葉にできないくらい刹那的で且つ美しいもので、果たしてそれが良かったのか悪かったのかはわからないけどああしかできなかったというのは自分でわかってるから、本当に意味のあるものだった。ただやっぱり俺は、ようへいやあびに嫉妬してしまうちっぽけな男である。「階段に座って」ができて以降のライブで、「階段に座って」も「ライク・ア・ローリング・ソング」もどちらもやらなかったライブは、きっとここ2年くらいで初めてだった。別にそれはいいのだけど、でも、楽しいに勝るものはないよなって思ってしまった。これは後悔ではない、嫉妬だ。今一番ワンマンをやりたい場所が広島です俺は。

お好み焼き屋さんで打ち上げをした。瓶ビールを2本ほど分け合いながら空けて、ほんの1時間くらいで解散した。店の前で写真を撮って、ベランは向こう、バンズはあっち、俺たちはこっち、見事に3方向へ解散。男は去り際が肝心だから、こんな時は後ろは振り向いちゃダメなのだ。俺は広島泊まりだったのでメンバーと別れて宿へ。



24日
広島でゆっくりと目覚め、ゆっくりとした。近くにあった喫茶店でぼーっと考え事をしたり、作業をしたり。あっという間に夜になって、気づいたら寝ていた。

25日
もともと武田高校に顔を出しに行こうと思っていて俺だけ広島に残ることにしていた。連絡を取って、「25日なら」とのことで、この日7ヶ月ぶりに武田高校へ。学校の周り、西日本豪雨の被害がすごかったのも知っていたしずっと心配だった。それもこの目で見たかったし、直接話も聞きたかった。車を借りて午後に一人運転してゆっくり向かう予定だったが、午前中にのぶこ先生という生徒指導の先生から電話がきて「ちょっと早めに来て欲しい」とのことで慌てて準備して向かった。学校が近づくにつれて崩れて山肌が出てる箇所があちらこちらに見えてくる。学校について校長室で、校長先生とのぶこ先生と三人で今回のお互いの災害について話す。報道だけじゃわからなかったことを話してくれた。

そして、のぶこ先生が「お昼の校内放送に出てほしい」と切り出した。急。急だよ、先生。どうやら、俺が来るからということでせっかくだし何かを伝えてもらおうってなったらしく、前日に校内放送をやろうと決めてくれたみたいだった。ちなみに、武田にお昼の校内放送はないらしい。どういうこと!!
すると生徒会の女の子が二人きた。どうやら彼女たちが進行に選ばれたらしい。「昨日先生に言われてびっくりしたけど、二人で夜電話して色々考えました!」と教えてくれた。グッときたよ。彼女たちはiPadをつけていくつかの質問を見せてきて「こういった内容を聞いていってもいいですか?」と教えてくれたのでやりやすかった。もちろんなんでも聞いていいよと答え、あっという間に放送室へ。打ち合わせらしい打ち合わせはほぼ0。そんな中、ありもしない校内放送が突如学校中に響き始める。伝わるだろうか、この、すごいことが起きようとしてる感。先生方もどこかそわそわしてたもんな。「卒業証書」を1コーラス流して、自分たちでボリュームを落としてフェードアウトして、放送室にある小さな細長い1本のマイクを三人で囲んで、いよいよ始まった。

「みなさんこんにちは!今日はお昼の放送をやります!武田チャンネルーーーー!!!!!!!!!」

元気よく始めた二人の声はキーンとハウリングを起こし、それは本物のロックンロール、俺はもう本当に涙が出そうになって手が震えたな。彼女たちは俺を紹介してくれて、一生懸命、話をしてくれる。俺も一生懸命話をした。本当に各教室に届いているかもわからなかったけど、時折聞こえるハウリングがその証拠だったし、とても尊い時間だった。あの放送が誰かの何かになるかはわからない、だけど、やったことに意味がある。本当にそれが全てなような、そんな時間だった。突然決まってやったこともない役を元気よく引き受けてくれた二人に心から拍手だし、いきなりこんなビッグイベントを入れ込むのぶこ先生には頭が上がらない。俺も校内放送に出たのはもちろん初めてである。あっという間に過ぎていった10分たらずの武田チャンネルは、素敵な番組だった。そのあと二人に食堂に連れて行ってもらい、一緒にお昼ご飯を食べた。たくさんの生徒たちがご飯を食べていて、サインを書いたり写真を撮ったりしながら、中華そばとプリンをたいらげた。食べ終わって、二人と一緒に応接室へ向かう。同時に、昼休みの終わりのチャイムが鳴る。ここでお別れだ。また元気に再会しようと握手をして、二人は階段を駆け上がっていった。のぶこ先生と校長先生と少しお話をしてから、のぶこ先生と学校を出た。先生が学校の周りの土砂崩れのひどかったところを少し案内してくれたんだけど、ひどかった。道路がふさがり、家が流され、人が亡くなる。厚真の方もきっとひどいだろうなと思ったのと同時に、自分の無力さをそこでまた痛感した。みんな頑張っている。俺には何ができる。

のぶこ先生は別れ際、武田高校の卒業生でもなんでもない俺に向かって、「どうか元気でね、またいつでも来てください」と言い、お菓子と武田のグッズをくれた。


それから俺は車を走らせ、呉に向かった。我がTHE BONSAI RECORDSの首謀者ツネさんの地元だ。呉もまた、西日本豪雨の被害が大きくて、ツネさんもきっとしんどかったと思う。豪雨が来たあともツネさんは自身がやってるラブ人間の活動と、ライブハウス下北沢近松、あとは俺たちのことも色々動いていた。絶対、呉のこと心配だったと思うし帰りたかったと思う。代わりにはならないけど、ツネさんがいけない分、せっかくだし俺が少し足を踏み入れてこようと思って呉も行ってきた。あんな場所まで一人で車で行く日が来るなんて思ってもいなかったけど、呉までの道で見えた景色や、呉で出会えた人、場所、感じたことは、これからの俺にきっと繋がっていくものばかりだった。

夜は近くにあったファミレスで一人ぼーっとポテトを食べた。その日の夜はなんだか寂しかったけど、朝は無許可で来た。俺はもはや街に嫉妬している。ちゃんと新幹線に乗って神戸まで向かい神戸空港からの飛行機にも乗れて、北海道上空に差し掛かったところで厚真の山が見えた。すごい気持ちになった。


久しぶりに北海道に帰ってきた。部屋について、ブレーカーをあげた。

コメント

  1. ソングフォールズツアー広島行きました。
    ボイガルのライブは何度か行っていて、シンゴさんとグータッチしたり、シンゴさんがフロアに降りてきたり、お客さんがステージに上がったり、ケントさんが突っ込んできたり、トモヤさんとの漫才みたいなMCだったり、そんなライブが大好きです。でも、広島は何も起きなかったのに、いい意味で何も起きなくて、それなのに心は今までで一番と言っていいほど、震えました。
    うまく表現できないし、ありきたりな言葉しか言えませんが、本当にかっこよかったです。
    私事ですが就職が決まりました。一番やりたかったことは諦めて、別の道に進むことにしました。新しい目標もできました。本当は悔しくて諦めきれなくてモヤモヤしてますが、1回進んでみようと思います。進んだ先でキツくなったら立ち止まってみようと思います。
    いつも、勇気をくれてありがとうございます。シンゴさんのような人間になりたいです。
    就職したらあまりライブに行けなくなるかもしれないですが、これからも、時々でも、ライブに行くので、広島でのワンマン楽しみにしてますね。
    また4人で山口県にも来てくださいね、お待ちしてます!
    長くなりましたが、風邪など引かれませんようにどうかご自愛ください。

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    1. 嬉しい、僕にとってもとても意味のあるライブができて今でも思い出します。就職おめでとうございます、きっとまたその時は来ると思うので、僕は僕で頑張ります。山口も、また必ずね。どうかお元気で。

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  2. 広島のライブ、行きました!
    バンズもベランも、本当にいいライブでした!でも、やっぱり私の中ではボイガルが一番でした。そして、この3組を広島で見られたことが、本当に良かったです。それぞれが、本気でぶつかり合ってるように思いました。それぞれ、広島で生まれたわけでも、育ったわけでもないのに、まるでホームかのように…それは、やっぱりボイガルへの愛があってこそだと思ったし、ボイガルが、広島のことを大切にしてくれているからだな、って思ったんです。

    私は、まだあの豪雨から呉の街には行けていません。こんなに近くにいるのに。しんごさんって、すごいなって、思っちゃいます。

    ワンマン、絶対に実現してください!!それまで元気でいます!元気でいてね!

    あやどん

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    1. 僕は呉で何か特別なことをしたわけではありません。誰かと比べることなく、それぞれの命でそれぞれの思いがあれば、僕はそれが一番だと思います。広島には広島の思いがあります、また行きますね。

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  3. 先週広島弾き語り2日間行ってずっと読んでた愛葉集のこの投稿を見返したくなりました。シンゴさんの言葉や歌には毎度心動かされます。弾き語りでもまた大きな力をもらっちゃいました。また広島でも待ってます。2日間ありがとうございました。

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    1. コメント返すの遅くなってしまいました、すみません。ふと、この愛葉集のどこかの投稿を思い出してもらえるなんて、嬉しいです。広島、また必ず。

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