みみ、ばしる



そういえば、知ってた?
意味ないことなんて本当にこの世に一つも存在していないみたい。だって僕は見たんだ、この目で見たんだ、登戸の手前あたりで吊革につかまった自分の情けない顔を。僕は感じたんだ、この心で感じたんだ、永遠の中の一瞬ってやつを。悲しいかな、今になって涙が出そうになるのは畜生そういうことですか。

「みみばしる」が終わって1週間が経つ。書こう。



石崎ひゅーいさんから電話が来たのは去年のいつ頃だっけ、もう思い出したくもないな。「シンゴ、来年初めから3月頭くらいまで、どんな感じ?」って聞かれて、はっはっは仮にも僕はロックバンドですよ人気は無いけど年に100本近くライブをしてきているしたった数ヶ月先ならとっくに決まってるに決まってるじゃん、なんて言えず、「何にも決まっていません」と答えたんだ。

はっはっは、ほんとに何にも決まっていなかった。何にも決めれない時だった。バンドが変わろうとしていた。バンドが終わるかもしれない時だった。11月9日までのSONG FALLS TOURが終わったらその先のことは考えようとなっていた。ひゅーいさんにはまだはっきり言えなかった。でもあの時ひゅーいさんは、なんとなく、なんとなく僕の気持ちを察したように「そうか、わかったよ。またすぐ連絡するね」と言って電話を切ったんだ。


しばらくして正式に、舞台「みみばしる」のオファーが来た。ひゅーいさんが「俺が歌を作る、それをシンゴ、お前に歌ってほしい」と言う。僕は「わかりました、一生懸命歌います」と言う。


結局バンドは、僕以外のメンバー3人が抜けることになった。3月に最後のツアーをやろうと決めて、同時に僕はその先もひとりでボイガルをやることを決めた。


年が明けて1月、始まった稽古、飛び出した札幌。小さなキャリーバッグに詰めたのは少しの服と、あとなんだったっけ。あの時ちゃんと、覚悟とか希望とか、そういうのも詰めてこれたっけ。50泊51日の旅が始まった、ひとりは好きだし慣れてるんだ。

ただ、

北海道の田舎育ち、無名のロックバンド、うまくもないしカリスマ性もない、人気もなければ裏声も出せない。そんな僕にこれ以上何ができると、腐りそうになった時も確かにあったな。そんなにひゅーいさんがいいなら、ひゅーいさんの歌がいいならよって、ひとり酔っ払って事務所の隣のファミマで吐いた夜もあったな。見返した写真、電話の向こう側、救われた夜もあったな。



僕らは毎日のように顔を合わせ、終わりに向かって共に走る仲間になっていた。僕らはフィクションの中で、嘘の中で、本当の時間を本物にしていた。ひゅーいさんの金で飲んだ酒はいつか僕が誰かに飲ませる酒で、二人で歌ったあの歌は南武線のホーム駆け下りていった。目的地は一緒、だけどそれぞれの駅でみんな降りていったね。


2018年もうこれ以上どうすればいいんだよってなって、2019年になってみみばしるのみんなに出会った。ばらばらの畑をそれぞれ耕してきてたみんなと、たった2ヶ月だけ、1つの畑を耕した。それぞれのやり方で、それぞれの生き方で、それぞれの声で、それぞれの服装で、それぞれの嘘のつき方で、それぞれの過去を秘めて、僕らは同じ畑を耕した。


東京公演中、一度だけ、終わって10分くらいで劇場を後にした日があった。情けないが壊れそうだった。なるべく少ない言葉でバレないように、さっと挨拶して帰ろうと思った日があった。目次さんと最強さんが、なんで帰るんだよと僕を抱きしめてちんこを触ろうとしてくる。あんな優しさ、ずるかった。涙が出そうになって二人を笑って振り払った。「シンゴ」とそこにいたゲンの声が聞こえたが、振り返らずに帰った。申し訳ないことをした。赤と白の着到板、あの時ちゃんと赤に裏返して帰ったっけ。

次の日、開演直前に、シンゴさんの歌が好きだから大丈夫ですと言われた。
僕は救われた。そんなこともあった。





書き出せばキリがない。もうやめよ。
振り返っても仕方ない、前を見よう。
戦って踠いて足掻いてるみんながかっこよくて羨ましかった、そんで、そんなみんなと一緒にいる自分のことが大好きだったんだ。
薄い幕に覆われた僕だけの小さな部屋。
バレないように目をキョロキョロさせて、耳を澄まして、いつもみんなを感じていた。
冷蔵庫のリポD
すれ違う舞台裏
グータッチとロックンロール
青いコンバースと青いネルシャツ
真っ赤な薔薇と白い汗とり
酔っ払った30歳と錆びたギター
雨の横断歩道と1枚の写真
カップラーメンと歯磨き
ラーメンとラーメン

ああ、もうやめよ、ちゃんと覚えてるんだ。







すべての瞬間に感謝します。
みんな元気?風邪ひいてない?

コメント

  1. みみばしるお疲れ様でした!!
    昨日久しぶりにライブに行ってきました!
    元札幌のアーティストさんがボイガルを流していて、歌っていて、札幌のアーティストさんがボイガルのグッズを身に付けてました。
    ボイガルへの愛をすごく感じました。
    相手を思うのって素敵だな。

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    1. 嬉しい限りですね、ありがとうございます。

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