隅っこの誰かまで

 昨日、FREEDOM NAGOYA 2022に出演してきた。とんでもないでかさのフェスティバルだった。ここに混ぜてもらえたこと、本当に嬉しく思う。
朝6:30頃家を出て、いつものように快速エアポート。電車の中、飛行機の中で、色んなことを考えて会場に向かった。

会場は、中部国際空港から徒歩5〜10分のところにあった。明らかにフリーダムに向かうお客さんたちが結構いた。
空港内に「フリーダムナゴヤ会場はこちら」という看板を持ったスタッフさん達が何人か立っていた。ライブを見ることもなく、朝から晩までずっとあそこにいたんだろうか。無意識のうちに、先月のSHIRUBE 2022、シルベクルー達の顔が頭に浮かんだ。


ビレッジマンズストアやLUCCIのライブを見て、名古屋をビシバシに感じた。ライブハウスとバンドが切磋琢磨してでっかいフェスに辿り着く。羨ましく見えた。


色んなところにヒントが転がっていた。
それらをなるべく拾い集めて、なんとなく、「今日はこういうライブになりそう。こういうこと言いそう」と珍しくイメージが浮かんだ。まあ、そういう時は、そうならないんだけど。


時間になって、シュンキさんと三角とポルノとステージ裏まで移動した。



そこで、さっきまでのイメージしてたことが、あっさり塗り替えられた出来事があったので、記しておく。



黄色いスタッフTシャツを着た女の子が声をかけてきた。何かあったかしらと思い耳を傾けると、「シンゴさん、私名古屋でバンドをしています。本番前にすみません。マーブルケーブというバンドをしています。私もボーカルもボイガルが好きで、すみません、CDを聴いてもらいたくて受け取ってもらえませんか?すみません、今しかないと思って。受け取ってもらえませんか」と、暗がりで、少し震えながらも一生懸命話してくれた。


つい先日、実は俺も全く同じようなことをした。
いつも使っているスタジオで、隣の部屋にずっと憧れている方達がいることに気づいて、その方達の帰り際を狙ってボイガルの練習を中断してCDを渡しに行った。俺もその時、めちゃくちゃ声が震えた。




話は戻って

「ありがとう。もちろん、ききます」と受け取ると、その子は嬉しそうにしていた。

「お名前は?」ときくと、「ともちです。ボーカルは銀平です。あいつはフロアでボイガルを見ると言ってました」と教えてくれた。

ともちから貰ったそのCD-Rのジャケットには「FREEDOM NAGOYA限定!」とプリントされていた。カラーコピー、白黒から一気に値段が跳ね上がること知ってる。銀平と頑張って作ったんだろう。ともちは、小さなポーチに、CDをパンパンに詰め込んでいた。きっと、1人でも多くのバンド達に聴いて欲しかったんだと思う。そしてどうやら、会場内でも無料配布していたみたいだった。演者はもちろんだけど、なにより、1人でも多くの初めましてがあった方がいい。
どこで誰に届くかなんてわからない。その気持ちがかっこよかった。



ともちは、「フリーダムの出演をかけたオーディションで出演権を獲得できなかった」と言っていた。それでも今回は銀平と2人で、スタッフとして参加していた。

俺は、「そっか」としか言えなかった。





イメージしていたことが塗り替えられたというのは、これである。あのステージ裏に、名古屋のバンドとライブハウスとフェスと、悔しさと希望の詰まった、ノンフィクションの物語があった。
俺はこういう性格なので、自分勝手にもほどがあるので、ステージでともちの話をした。
呼んでくれた綿さんへの感謝はたった一言ですませてしまうような、そんな男である。



MCのタイミングで、ともちをステージに呼んだ。
「ともち、どこだ!ステージ来い!」と叫んだ。ステージ袖のスタッフ達がキョロキョロしながらあたふたしていた。だけど、ともちはなかなか現れなかった。

俺は「おい、ボーカル、客席のどこかにいるだろ」というと、真ん中の奥の方でひとりの男が大きく手を振りながら飛び跳ねていた。銀平か?!というと、飛び跳ねていた。CD貰ったぞ!というと、銀平はずっと飛び跳ねていた。落ち着け銀平。

最前列のお客さんがステージ袖の方を指差していた。目をやると、ともちがいた。
「ともち、おいで」と言うと、ともちがふらふらこっちに歩いてきた。

ともちが俺のとこまで来て、「落ち着いて、バンドのこと話そう」と言うと、ともちは小さい声で「落ち着いて、はい」と言って、マイクを両手で握り、「マーブルケーブというバンドをしています。無料配布のCDがあります」と、あんなでっかい会場で、今にも消えてしまいそうな声で話し始めた。

お客さんの拍手も、聞いてくれてる目も、嬉しかったな。銀平には、ともちがどんな風に映っただろうか。

ともちは話し終わると、泣きながらステージを降りて、またステージの裏の暗がりに戻って行った。そうだ、スタッフだもんな今日は。次の出演者が来るから、対応しないとな。


待ち時間25分、ライブで伝えたいのは、なるべくその今。残せるものは残していくから、持っていけるものは持っていってほしい。ともちがステージを降りて、次に控えてた曲は「ノンフィクションの約束」という曲だった。歌詞も何もかも、今日のために作った歌のように思えた。


ライブが終わり、銀平も裏にきて、2人が一本ずつ俺に水をくれた。今年1番うまかったような気がした、気のせいかもしれないが。







ハルカミライのライブが終わったあと、ともちが「シンゴさん、CD全部なくなりました!」と教えてくれた。目は涙で真っ赤だった。

涙が出るほど嬉しかったんだな、と思ったが、いやちょっと待てよ。

そういえばともちはその直前、ハルカミライのライブを俺のちょっと前で見ていた。何度も何度も涙拭っては、何度も拳を挙げているのが、俺には見えていた。

おい、ともち。さてはハルカミライの方が好きだろ。

ハルカミライの前に、まずはボイガルと対バンだぞ、約束だ!!こんちくしょう!


(photo おおつぼゆうガ)


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