変わるしかないぜ

生きて、また会いたい。そんなことばかり思う。
完璧な人なんていないし、うまくいっているように見える人でも、きっと見せない傷がある。
だからこそ、生活の中にふと流れる音楽というものを信じている。俺にとっては音楽が一番近くにあるから。だから、音楽が結んでくれる目に見えない結び目を信じている。


23日、下北沢、SEVENTEEN AGAiN企画「真夏のリプレイスメンツ」
思い出すのは、2009年から2010年にかけての札幌北区、ガラガラのライブが終わった後の情けない打ち上げ。あの日誰かが急にSEVENTEEN AGAiNというバンドの曲を流した時が、始まりだった。どんなに追いかけても擦りもしなくて、その度に諦めて、それでもずっとほどけなかった。俺のそばにいてくれた。

2019年春、うちのメンバーが脱退してすぐ、下北沢で対バンした時。俺は弾き語りで、SEVENTEEN AGAiNはバンドで。あの日、終わった後に外でヤブさんが話してくれたこと、すごく嬉しかった。「俺にはバンドが見えたよ。だから大丈夫だよ」と、あの人はその時、俺に言った。

リプレイスメンツ、知ってるバンドが呼ばれていくのを唇噛み締めながら見ていたこれまでの日々。「いつか俺も」そんなことを思っていた。

2022年夏、ヤブさんから声がかかる。ずっと待っていた。
ボイガルは1番目、まだ熱さが上がりきっていない楽屋でその時を待っていた。
ヤブさんが来て、「前説するから、それ終わったらボイガルの流れね」という。俺は「わかりました」と答えた。
ヤブさんが前説に出て行くまでの数分、ステージにつながるドアを背にして、ヤブさんと並んで座り、話をした。リプレイスメンツのこと、あとはなんだっけ、何話したっけ。

俺にとってのあの数分は、ドキドキして、優しくて、愛しくて、なぜだか「生きよう」って思わせてくれたものだった。だから、数分後に始まるボイガルのライブも、見てくれる人がそんな風に感じてくれたらいいなと、漠然と思った。

後ろまでよく見えた。たくさんの人の中で、何度も頷いてくれていた人がいた。
いいライブができた。胸を張ってそう言える。なぜなら俺は生きているから。命のまま、あの日の俺のままで、ステージに立てていた。そこに嘘はない。そして、もっと強くなりたい、そう思えた。

出番が終わってすぐ宿に帰り、布団に横になりながらひとりSEVENTEEN AGAiNを流していた。気づいたら何時間も経っていて、外が明るくなり始めたころに目を閉じた。




24日
昼頃、ヤブさんから電話がきた。
「シンゴくん、昨日はありがとう」から始まったその電話は、何より優しくて、誰より繊細で、思い出したら涙が出てしまいそうな、そんな電話だった。だから俺も思いを伝えた。俺は本当に嬉しかったこと、大好きだってこと、あとは、俺も同じ気持ちですってことを伝えた。15分間のその電話もまた、思いきり生きていた。

ムロフェスへ向かう。会場は渋谷。車に乗り、会場入りの時間めがけて走らせる。
東京は車も多いし道も狭いし暑いし車線も多いし大変だななんて思っていたら、歩道におじさんが倒れていた。70歳くらいだろうか。その場に車を停めてハザードランプをつけて、助手席にいたスタッフのモリイと俺はすぐ車を降りた。
「おじさん大丈夫?わかる?」と声をかけたが反応は薄かった。でも呼吸はしていた。お腹をおさえていた。「お腹痛い?」と聞くと「吐き気がするんだ」とおじさんは答えた。
車内にいたカメラのはなちゃんからティッシュを受け取り、おじさんの口元に置いた。
道が道だから、運転席にいたマネージャーのつじが車を少し移動させた。すぐそこにあったローソンで水買ってきてとモリイを走らせ、俺はおじさんに声をかけ続けた。

俺たちはやれることを必死に探しつつ、おじさんに「大丈夫だから、もう少し頑張ってくれ」と声をかけたり、おじさんの体を少し冷やしたりしていた。おじさんは時折苦しそうにしながら、俺の問いかけにはちゃんと応えてくれていた。30度の気温に、熱い歩道。そこに横たわるおじさん。
動きたくなさそうなそぶりを見せていた。

おじさんと最初の会話をしてすぐに呼んだ救急車が来たのは、それからずいぶん時間が経ってからだったけど、なんとか持ちこたえてくれたおじさん。ホッとした。
救急隊の方が「もう大丈夫ですので」と言ってくれて、俺とつじとモリイは、なんだか、少しの間足が動かなかった。ムロフェスの会場入りすべき時間から、その時すでに一時間くらいが経とうとしていた。つじが「行こっか」と言った気がする。メンバーとはなちゃんが待ってる車へ、三人で歩いた。その50メートルが、なんだかすごく長く感じて、ゆっくり歩いたような気がする。


「おじさんはもう大丈夫だ。気合い入れていこう」と車内で誓い、一時間遅れで会場入り。
搬入口でハルカミライのマナブに最初に会って、その元気そうな顔にめちゃくちゃ安心した。
俺はひげを剃り忘れていて、一番近くにある洗面所がハンプバックの楽屋ですと言われ、申し訳ないが突撃した。ぴかちゃんが歯を磨いていて、申し訳ないことした。三人ともごめんね。


あっという間にライブは始まった。
気を抜いたら、おじさんのことを話してしまいそうだった。でも、ムロフェスには関係ない。このたくさんの人の中の、たった一人に、届くような歌を歌いたい。そして、「今めっちゃ生きたー!」って思ってもらいたい。そんなライブをしたかった。

結果的にどうだったかわからない。ちょっとふざけすぎたようにも思う。でも、前日同様、あれが俺のリアルだった。そこに嘘はない。


終わって楽屋に戻り、しばらくぼーっとしていた。
そこに、「シンゴさん久しぶりです」と、さよならポエジーのアユくんが来た。数年ぶりに会った。「随分いい終わり方だったじゃないですか」と笑いながら話してくれて、「見てたの?やめてよ」と返した。5分くらいだったかな、数年ぶりに会ったアユくんはその短い時間でも言葉ってやつをしっかり俺に刻み込んで来た。おかしなことも言ってたけど。アユくんは「元気じゃなくてもいいんすよ」と言って、どこかに消えていった。

トリのハルカミライを見て、ムロフェスは終わった。
車の中で、「おじさん、大丈夫だったかなあ」なんて言いながらみんなで帰った。






変わらずに変わり続けていきたいな。
いろんなことを感じながら、変わらずに変わり続けて、生きたいな。

そして、生きてまた会いたい。
音楽で思い出せるような、音楽が思い出させてくれるような、そんな瞬間を何度も積み重ねて生きたい。

この土日は、本当に濃かった。
ボイガルを知ってくれた人、見てくれた人、そこにはいなくとも気にしてくれていた人、本当にありがとうございます。













それでも、いまだに俺の目に焼きついているのは、
最後の最後に、膝抱えて握りこぶしで、拍手もせずにじっとステージを見つめていた、まなつの3人の姿だ。


コメント

  1. ムロフェスで初めてTHE BOYS&GIRLS に出会いました。それからずっと聴いています。出会えて良かったです。最高の時間をありがとうございました!!

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    1. コメント返せていませんでした、すみません。ムロフェスで出会ってくれて本当にありがとうございます、またいつでも来てくださいね!

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