放課後の思い出

いまだに思い出すだけで、ぽろぽろ涙が出てくる。
情けないったらありゃしない。いつまでも変われないね。


3月1日、水曜日。
札幌moleにて、THE BOYS&GIRLS企画「ENDROLL AFTER SCHOOL 2023」が無事開催された。
3月1日という日は、全部ではないけど、多くの高校が卒業式を迎える日。3年生にとってその日の放課後が最後の放課後になる。その最後の放課後に流れる最後のエンドロールの正体を、学校飛び出してライブハウスに探しにいくのはどうだろういうもの。そこにはもちろん後輩たちもいて、こんな放課後もあるんだって体感したり、とか。
自分が高校生の頃にしたくてもできなかったことを、ただやりたいなってところから、2018年に初めて開催した。今年、5年ぶり2回目の開催。2019年は、俺がこの時期に舞台の仕事が入ったためできなかった。2020年は開催直前でコロナ禍スタートで中止。2021年、2022年も色んな状況から断念。そして本当にようやく、今年開催。嬉しかった。

出演してくれるアーティストを募集。応募してきてくれたのは10組。

当初3~5組で考えていた。1組あたり25分オンステージの時間を与えるにはそのくらいの数が現実的。でも、なんか、もう無理、選ぶの。そういうの無理だった。
2018年の時を思い出した。初年度開催で何組かお断りしたこと。それこそ、先日のこのイベントでギターを弾いてくれたSULLIVAN's FUN CLUBのカズマなんて「俺2018年落選だったんだよ。あの時のシンゴさんからのメール、今も残してる。もう5年かあ」ってこの前見せてくれた。「そっか、そういえばそうだったな、ごめんな」って、笑った。

そう、あの時、結構きつかったんだ。

ほんで、今回出した判断は「全員出したい。全員出したいからみんなの持ち時間は10分にする。それでも全員出したい」というものだった。応募してくれたみんなに「持ち時間10分でもいいかな」というメールをすると、みんなから返ってきたのは「何分だっていい」という返信だった。北風と太陽以外、moleでライブやるの初めて。というかそもそも、“外でライブやるのほぼ初めて”という感じだった。
だからこそ、少しでもリハーサルも経験してほしくて、みんなが会場に到着できる時間を照らし合わせながらギチギチなタイムテーブルを作った。moleチームとも細かく色々共有しながら、本番同様1組10分転換込みのリハーサル。そんなの普通、ありえないんだけどね!
PAのゆっきさんと、照明/ステージ担当の久保ちゃんと川崎ちゃんと、何よりみんなのおかげで、最高な形でリハは進んでいった。ほんとにすごかった。映画にしたい。

リハだけで、もうほんとに、何度も涙が出そうになった。

全員のリハを見ながら、隙をみてなるべくみんなと話した。
いろんなことを教えてほしかった。ここに来るまで、どんな日々だったかを。どんな気持ちだったのかを。






1.Falchion
5人組、2年生。リハーサルの順番は最後だったけど、誰よりも先に会場に来たのがFalchionボーカルの千優ちゃんだった。まだ、ボイガルのリハが始まる前。
「初めましてー!Falchionのボーカルです、めちゃくちゃ早く来ちゃいました!!」って。最高だった。千優ちゃんは足でリズムをとりながら、うちのリハを見ていた。
本番直前、ステージ袖でみんなソワソワしていて、千優ちゃんが「2曲目オリジナルなんです、どうしましょう、、、」みたいな不安な顔で聞いてきたから、「とにかく堂々と歌っておいで、思い切り。大丈夫。」と先輩風を吹かせた俺。「はいいい」とステージに上がるFalchionのみんな。頑張れ...と祈るようにライブスタートを見守る俺。
そして、次の瞬間俺の目に飛び込んできたもの。千優ちゃんフロアに向かって超笑顔で「みなさんー!!楽しんでいきましょうー!!!」って。メンバーみんな顔見合わせてすっごい楽しそうで。いやいやいやいや!!!!なんだったんだよさっきの不安な感じ!!って、ステージ袖で俺と久保ちゃん、拳ぶち上げた。応募してくれた意気込みの欄に、『たくさんの人を楽しませて喜ばせる』って書いてたもんな。本当にありがとう。


2.伊藤カズキ(ギークマン)
エレキギターで、弾き語り。1年生。リハから最高、ジャズコーラス轟音。福岡さんが「なんかめっちゃいいなこの子!!」と興奮していた。
来てくれた人に配ったフリーペーパーの、“衝撃を受けた曲”に、カズキは「ナンバーガール」と答えていた。「世界が変わった」って。あいつのライブは、ほんとにそれだった。フリーペーパーで誰よりも長く止まらず溢れ出していたあいつの言葉は本物で、それがあのステージに出ていた。周りが自分と同じものを好きにならなくても、自分が周りと同じものを好きになれなくても、まずはそうだな、自分はこれが好きなんだってところから始めないとな。
ナンバーガールに世界を変えられてしまった高校一年生が、「誰もわからなくても」と呟いて、最後にIGGY POP FAN CLUBを弾き語り。
カズキは最後にエフェクターのつまみをグルッと回し、ある種の宣戦布告とやり場のない気持ちを歪みとノイズに乗せて、最後は自身のギターをステージに叩きつけて、「ありがとうございました」と言ってライブを終わらせた。袖で楽しかったですと笑ってくれたカズキ。本当にありがとう。


3.からあげらじお
4人組、1年生。最後の最後に滑り込みで、応募してきてくれた。この日は4人でステージに立ってくれたけど、ギターはサポートで、さらにもう一人いるから、本当は5人なんですと教えてくれた。2人はテストもあり、今回は断念したという。そうだよな、そういうのもあるよな。
それでも「出てみよう」と決めてくれたことが何より嬉しかった。応募の際の意気込みのところに「今回が初ライブです、精一杯頑張るのでよろしくお願いします!」という一文。初ライブ、いきなり完全体ではないステージ。でも出れない友達の分も、出てくれる友達と、思い切りやるぞって。本当によくやってくれた。リハで、ギターの龍が弦を切っていた。俺は、“リハで弦が切れる=なんか最高”という世代なので、最高じゃんと言った。何弦切れた?と聞くと、彼は「1弦です!」と笑顔で答えていて最高だった。初めてのライブ、初めての場所、4人にはどう映っていたんだろう。目の前のたくさんのお客さんに、めちゃくちゃばっちり届いていたこと、気づいているだろうか。これから色んなはじめてを経験していく中で、あのステージが宝物になっていたらいいなと思った。本当にありがとう。


4.Zanzo
2人組、3年生。ボーカルのルイちゃんの私物には、ダブサイの缶バッジや、マヤーンズのステッカーなどが点在していた。高校生活で、ライブハウス行ってロックバンドのライブ見るようになって好きになったと教えてくれた。ボイガルが全部繋げてくれたと教えてくれた。彼女はスマホのケースに、ユアキャンバスの特典を挟めていた。ギターのユウマは、「コロナで色々なことができなくて、何もできなかったまま終わってしまいそうで。よろしくお願いします」と言葉を残してくれていた。最初口数の少なかったあいつは、最後には笑って「ありがとうございました」と「悔しかったけど、楽しかった」と伝えてくれた。
ルイちゃんは、「ただただ3年が過ぎた」と言っていた。俺には、2人がどんな学校生活を送ってきたかはわからないし、気持ちを全て理解してあげることができないけれど、どうかこの日のステージが、2人のそんな気持ちを少しでも肯定してくれるようなものになりますように。
ステージに上がる直前、袖で「背中叩いてください」と2人が言うので、バチンと叩いた。そして、とてつもない爪痕を会場に残した2人。次の街で、未来の約束をした。本当にありがとう。


5.マコト
ドラムソロで、ひとり。3年生。「特にメンバーはいなく、音源に合わせてドラムを叩くという形態になるのですが、それでもいいですか?」と書いてあった。いいに決まってる。正解なんてない。ライブハウスでこうしてライブをしたことはないと言っていたマコト。大丈夫、みんなで一番いい形見つけよう。ポルノも色々手を貸してくれて、助かった。マコトはずっと緊張していた。不安そうにしていた。セットリストは、ユニコーンの大迷惑と、SULLIVAN's FUN CLUBの17歳。この2曲のドラムの音を限りなく0にした音源(どうやってやったの笑)を用意してそれに合わせてドラムを叩く。リハの時にマコトに、今日のボイガルのギターはサリバンのギターだよと伝えると「ええ!?」と驚いていた。マコトは、カズマが着ていたCREAM SODAの服を見て「クリームソーダ...?」と言った。「CREAM SODAっていうブランドなんだ」とカズマが言って、「なるほど!!かっこいい...」と目を輝かせていた。
マコトは本番で、特にドラムソロについての説明はせずに2曲やり切った。終わった直後、ドラム椅子のところで、「何だか泣きそうです」とあいつは声を震わせていた。本当にありがとう。


6.藤原颯太
弾き語り、3年生。卒業式を終えて、来てくれた。颯太も確か、初めてのライブ。聞いていたセットリストは2曲、リハの勝手ももちろんわからない颯太をナビゲートしつつ、あいつは自信無さげに歌を歌い始めた。その曲がめちゃくちゃ良かった。2曲ワンコーラスずつくらいサクッと歌い、本番よろしくお願いしますとリハが終わる。「誰の曲?」と聞くと、「あっ....自分の曲です...」と小さい声であいつは言った。それを聞いてうちのメンバーたち全員「ええええ!!!??」と身を乗り出した。初めて作った曲って言っていた。ここに来ているみんな、ほんとに一体何なんだ。マコト同様、颯太もずっと不安そうだった。でも大丈夫だ、今自分が歌える歌はめちゃくちゃいいのだ。だから絶対大丈夫だと伝えた。
「やばいっす、緊張やばいっす」とステージ袖でこぼす颯太に、ぶちかませ的な適当な言葉をかける俺。だってもう何でもいい、その2曲が最大の味方だよ。ぶちかませ。
「人前で話さなきゃいけないタイミングとかありますか?話すのが苦手です」と事前に聞いていた。「ライブをどう進めるかは任せるから無理にMCをする必要はないよ」という旨は伝えていた。そして、しっかり歌い切った颯太、かっこよかった。本当にありがとう。


7.サムデイ
3人組、2年生。もらったプロフィール写真から、いい奴らなんだろうなと思っていた。あの写真は、絶対にいい奴らだもん。
当日moleに来て元気いっぱい、音楽が好きな気持ちがめちゃくちゃ伝わってくる3人。2年生ながら、バンドの形がちゃんと見えて、ほんとなんでこんなしっかりできるんだろうと感心。聞くと、ジッピーホールとかでライブしたことあると言っていたけど、まだライブ歴は浅く、moleも初めてと言っていた。リハも早々に切りあげ、どんな音楽が好きかみたいな話を少しした。リュックと添い寝ごはんが好きで、先日のスパイスでのワンマンもみんなで見てきましたと教えてくれた。この日PAやってくれたゆっきさんは、本来スパイスのPAで、「ゆっきさんこの前のリュックと添い寝ごはんってPA誰でした?」と聞くと「俺だよ〜」とゆっきさんは答えた。それを聞いてサムデイの3人が「ほえ〜!!」となっていて、それもよかった。数日前に見た自分たちの好きなバンドのワンマン、その音響を担当していた人が、今日は自分たちの音響を担当するんだ。こういう瞬間に立ち会えた時が、やっぱりめちゃくちゃグッとくる。すごく誇らしかった。きっとどんどん良くなる。キラキラしてた。本当にありがとう。


8.渡辺悠人
弾き語り、3年生。2組前にでた颯太と友達で、一緒に来てくれた。出演は、別で。応募も、悠人の方が颯太よりは少し遅かった。悩んだのかな。俺に何ができるかなって。応募の意気込みのところに、「2022のライジングに初めて行って色んなアーティストを見て自分も音楽をやろうと思いました。ステージに立ったことも人前で歌ったこともないです。」と書いてあった。曲は、カネコアヤノちゃんの曲と聞いていた。でも数日後に悠人から「こんな機会ないから、曲を作ってみようと思います。できなかったらすみません」と来たので、「自分の曲でもアヤノちゃんの曲でも最高だよ」と伝えた。当日、悠人に「曲できたか?」と聞くと、あいつは「はい」と答えた。恐らく、出演者の中で一番「初めて」が多かったのが、悠人だったように思う。マイクへ向かうことも初めて。マイクスタンドの使い方もわからんよな。悠人、全然マイクから遠いよ、それじゃ勿体無い、せっかくいい曲かけたんだ、せっかくいい声なんだ、だから少しでもマイクに声が乗るようにするんだ。あとほんの少しでいい、それだけで変わるから。
本番、リハの時よりも聞こえるあいつの声に泣きそうになって、声張った時にマイクから超離れてるの見て泣いた。それでいいんだよ悠人。本当にありがとう。


9.北風と太陽
4人組、2人が3年生、2人が成人。札幌で、メキメキと活動している北風と太陽。今年の頭に開催されたmoleのイベント『FSR』の時に、ボーカルのヒロトが声をかけてくれた。「北風と太陽というバンドをしています」と。このイベントに出たいけどメンバーに大人がいるとやっぱだめですか?と聞いてきたので、俺は、いいよと言った。弾き語りでもいいし、みんなで決めてくれて構わなかった。今回の中に北風と太陽がいたこと、俺はめちゃくちゃよかったなって思う。北風と太陽だけmoleに到着できる時間の都合でリハーサルができなかったけれど、しっかり積み重ねている今をぶつけてくれたし、彼らは彼らで、他の出演者たちから何を感じるだろうと思っていた。同じ時代を生きた同世代だとしても、環境も何もかも違うから、同じようになるわけがない。大事なのは、ライブをした回数でもなければオリジナル曲の数でもない。
俺はここまでの8組で本当にグッサグサに心を突き刺されていたからこそ、北風がバッチリかましてくれたこと、そしてこのイベントを思いそれを体現してくれたことが嬉しかった。
ヒロトは俺の真似をして、首元切ってマッキーで字を書いたTシャツ。馬鹿野郎。本当にありがとう。


10.たいと。
弾き語り、3年生。きっと、もう、今にも崩れ落ちてしまうような、そんなところにいたんだと思う。というか多分、もうとっくのとうに崩れ落ちていたんだと思う。たいとはきっと、そういう奴なんだたと思う。自分が一番面倒くさくて、色んなこと認めたくない自分を、一番認めたくなくて。そんな奴だった。初めて会ったけど、初めて会ったような気がしなかった。リハの前に、ダーーーっと俺に思いを伝えてくれたたいと。今日からまたリスタートしたい、そう言っていた。まだ会って数分の俺に、そう話してくれた。言葉にすればするほど、目が潤んでいくたいとを抱きしめたかった。でも、まだだ。まだ何にも始まっちゃいない。「よし、リハやるぞ」とステージに送った。
たいとはずっと、何かと戦っていた。しっかり自分の気持ちがあるのに、その気持ちがグラグラしてしまうんじゃないか不安だから、ずっと気を張っておくみたいな。俺はそういう奴が好きだから、本番どうなってもいいから後悔はしないでほしいなと、ただそれだけを願っていた。
たいと、もう大丈夫だ。これからは俺もいるし、また話そう。だから、ステージ降りた時のあの自分の手の感触だけは忘れるな。本当にありがとう。




ここまでほぼずっと楽屋とステージを行き来し、ライブは全部ずっと見ていたので、自分の準備は何にもしていなかった。たいとが終わり急いで楽屋に向かうと、「シンゴさんこれ持ってくよ〜」とメンバーたちが俺の機材を持って降りてきてくれた。ありがとうと行って楽屋に戻り、急いでTシャツを書いて、すぐステージに戻った。あとはボーカルに任せろ。



その後のボイガルのライブが、悪いわけない。
みんなのおかげだ、本当にありがとう。
ダサくて、ベシャベシャで、ブサイクで、汚くて、やんなっちゃうなっていつも思うけど、これにしかならないから、俺ずっとこのまんま行く。ステージの上だけは、一番ブサイクでいたい。



ライブ中、出演者のみんな、色んなところから集まったみんな、少し離れたところにいつも前の方にいるみんなが見えた。初開催の2018に出てくれたKALMAのゆづきや、中止になった2020に出演予定だったでかくてまるい。のみんなやモエカちゃんも、きてくれてありがとう。

階段には、東京のペコリさんと真駒内のmell flowers・澤口さんがスーパータッグを組み、本物の桜を咲かせるというとんでもないことを成し遂げる。
この日に満開になるように、温度調整とか細かくしてくれたんだって。聞いたことないよそんなの。ちなみにペコリさんは普通にチケット買って整列もして入場していた。気づいたらいなかった。ありがとうございます、感謝です。




くだらないことは多いし、消えていくものも多いけど、なるべく無かったことにしたくないだけ。なんにもなかったなんてことはないってことを、知ってほしいだけ。
この先に絶望が待っていたとして、その時に思い出してほしいだけ。
後悔にも似た日々が、これからの日々へ向けた光に少しでもなってほしいだけ。


先月配信リリースした配信シングル三部作の一曲目、「みはるの頃」は、そんな曲です。
この日演奏できたこと、すごく嬉しかった。届いているかな。どうかな。



生きてればきっと会える。また会いたいから、生きててほしい。
学校辞めても、仕事辞めても、1人でも、住む場所が変わっても。

その時はチャイムが鳴っても教室に戻らないで、日が暮れるまで話そう。
夢でもなんでも、君の声で俺に話してほしい。


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